• 検索結果がありません。

緒言 分子研リポート2000 | 分子科学研究所

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "緒言 分子研リポート2000 | 分子科学研究所"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

分子科学は分子の構造・機能・反応を解明し、分子スケールでの新しい物質概念を創製する言わば「広義の物質科 学」として定義される分子スケールの基礎科学である。20世紀において、量子力学を基盤に原子・分子についての詳 細な研究が展開された結果、物質の基本単位としての分子が認知される存在となった。しかも、生命体にまで及ぶ実 に幅広い分子の世界が自然科学の諸階層を跨がった重要な基礎科学の研究対象である事が認識される様になった。今 日では、極低温でしか存在しない極めて弱い結合をもつ分子錯体から、マイクロメーターに達する巨大分子集合まで、 多種多様な分子が生成され、そのようなさまざまな分子の示す構造、物性、反応性などの精緻な測定、操作が可能と なった。この結果、環境科学、生命科学を含む多くの分野にも分子の概念が適用され、分子レベルでの研究が根付く 時代となろうとしている。いいかえれば、分子スケールの科学、つまり分子科学は21世紀の科学技術の発展に基盤的 役割を担っている。

分子科学研究所は、この四半世紀間、B地区においてわが国の分子科学発展の拠点としての役割を果たしてきたが、 新世紀においてはE地区への展開を含めて新しい物質の概念を提供しつつ、アジアを含む多国間の国際共同研究拠点 として科学技術の広汎な分野に影響を与える高等学術機関としての役割を果たさねばならない。特にB地区では極端 紫外光実験施設と分子制御レーザー開発研究センターの基盤設備を利用した光分子科学および化学反応ダイナミック ス研究の新たな展開、E地区においては分子物質開発研究センターおよび統合バイオサイエンスセンター(平成12年 度に発足した岡崎3研究所の連携組織)の基盤設備を利用した物質科学の新たな展開に実験研究者の全勢力を注がね ばならない。実際、すでに分子科学研究所では外部の共同研究者のみならず、内部においてもこれまでの研究系の枠 にとらわれない共同研究の輪を広げることで、新しい展開を図っているところである。また、分子科学研究所電子計 算機センターが発展する形で平成12年度に創設された計算科学研究センターを基盤設備とする理論分子科学研究も他 の組織にはない分子科学研究所の際だった特徴として強化しなければならない。

このような将来計画を推進していく上で、現在、最も重要なのはB地区では極端紫外光実験施設の高度化および組 織再編である。また、E地区では単一分子を基本とする分子素子の基本概念の確立である。極端紫外光実験施設にお いては平成12年度、外部評価(4章を参照のこと)を受け、高度化および組織再編の緊急度が非常に高いとの指摘を 受けている。また、平成13年度から、東北大学金属材料研究所、高エネルギー加速器研究機構物質構造研究所、東京 大学物性研究所、京都大学化学研究所と本研究所が物理と化学の枠を越えた新しい物質科学の分野開拓を目指して共 同研究の試みを開始することになっており、分子素子研究の重要度が非常に高まっている。

この25年間の活動の場であったB地区に加え、E地区への展開が分子科学研究所の新しい発展の可能性を大きく膨 らませてくれている今、分子科学研究所は将来計画委員会において、以下のような将来構想の枠組みを固めた。

(1)光分子科学

(2)物質科学

(3)化学反応ダイナミックス

(4)理論化学分野

(5)多国間国際共同

(1)光分子科学

B地区において、極端紫外光実験施設、分子制御レーザー開発研究センターなどを中核として、21世紀の重要な柱

5.将来計画及び運営方針

(2)

としての光科学の新展開を図る。レーザーに加え、放射光という地上には存在しないエネルギー領域の光を持つこと は、これからの分子科学研究に大きな利点を与えるであろう。本研究所の放射光施設は国内の多数の利用者を抱え、活 発な研究が展開されているが、設置17年を迎え性能的に問題を生じつつある。現段階で、高度化を図り、「地上にない 光」としての放射光を利用した、新しい光分子科学の研究が展開されることは、本研究所にとって第一に取り上げら れるべき緊急の課題である。

光分子科学に対する新展開には光源の開発に加えて、従来の枠組みを越えた共同研究体制の推進が極めて重要であ る。共同研究体制を担う極端紫外光実験施設および分子制御レーザー開発研究センターは分子科学が必要とする先鋭 化した放射光源およびレーザーを開発しつつ、電子構造、分子構造、極端紫外光研究系との共同研究を推進している。 この2つの施設はさらに広範囲の研究グループが参加する協力体制の確立に寄与することで、極微空間計測など近年 急速に進歩しつつある計測手段との結合も積極的に試み、化学反応制御、ナノ領域の単分子測定と機能制御など分子 科学の根幹の問題へ挑戦する事が必要である。

(2) 物質科学の新展開

我が国の分子物質科学は本年度の白川英樹先生のノーベル賞の受賞にみられるように非常に高いレベルにある。分 子科学研究所は、E地区において、分子科学と生命科学の新しい連帯の場を持つが、新しい物質観を構築する場とし て、分子集団研究系、相関領域研究系そして錯体化学実験施設それらと連携をもつ分子物質開発研究センターなどを 中核とした、新しい研究環境を創設する。分子スケールでの物質科学という立場から、物理、化学、生物の共同作業 によりナノサイエンスをも包含するポストナノサイエンスともいうべき分子科学の新領域の開拓を目指している。具 体的には、分子を単位とする分子素子、分子エレクトロニクス、分子情報伝達系の設計と構築のみならず、それらの 物質系の情報発生システムなど、人工物ながら息づいているがごとき系の構築と計測、制御が目標である。さらに統 合バイオサイエンスセンターにおける戦略的方法論および生命環境研究領域との連携による生命科学における新たな 研究展開を広い意味での物質科学の視野に立って進める予定である。このような物質創製の場が、物理、化学、生物、 そして情報科学などの異分野間の国内外の共同研究の場としてE地区に展開し、分子物質開発センターを軸として分 子集団研究系・相関領域研究系および錯体化学研究施設が発展的な協力体制をとることにより、新たな分子科学を創 造する。

(3)化学反応ダイナミックス

物質創製の必須過程は化学反応であり、その意味で物質変換としての化学反応ダイナミックス研究の新展開を図る ことが、分子科学研究の重要な柱であることは説明の要もない。本研究所において、新しい理論と、それに対応する 先端的な実験が先導的研究グループによってなされ、国の内外において高い評価を受けている。このような根源的研 究は物質分子科学と光分子科学にまたがるものであり、分子構造研究系、電子構造研究系、極端紫外光科学研究系な ど化学反応を研究対象とする研究系と分子物質研究開発センター、分子制御レーザー開発研究センターおよび極端紫 外光実験施設との密接な関係を保持しつつ、この活性をますます発展させることが本研究所にとって重要な使命であ る。

(4)理論分子科学の充実

わが国において、理論分子科学は、福井謙一先生のノーベル賞受賞にみられるように、世界的にも極めて高い水準

(3)

にある。分子科学研究所の理論研究系は、発足時から常に世界の先端にあり、現在でもあらゆるスタッフが高い評価 を受けており、わが国の理論分子科学研究の中心として機能し、ここから発信された多くのすぐれた成果が、世界の 分子科学研究に大きな影響を及ぼしている。最近の計算科学の進歩、そして情報通信の革命的な発展にも支えられて、 この21世紀に理論の果たす役割は、加速度的に強まり、物質科学のみならず、生命科学、環境科学の研究などが、理 論を基盤として行われる時代に突入しつつある。分子科学研究所が、上述した諸分野における実験研究を強める一方、 計算科学研究センターを機構共通施設とし、生命科学との融合的研究が統合バイオサイエンスセンターにおいて実現 した今日、分子科学研究所の理論部門のさらなる充実をハード、ソフト両面から実現していく事が肝要である。

(5)多国間国際共同研究

分子科学研究所は、創設以来多くの国際共同研究を主催するとともに客員を始めとする多数の外国人研究員を受け 入れ、国際共同研究事業を積極的に推進し、国際的に開かれた研究所として高い評価を得ている。このような今まで の経緯を踏まえ、その問題点を明確にして新世紀にふさわしい国際共同研究拠点の体制を構築しなくてはならないと 考えている。その主要な論点は次の通りである。第一に国際共同研究のグローバル化が進行しており、二国間のみの 共同研究では対応しきれなくなっている。第二には、分子科学研究所のような国際的な研究期間は「世界の分子科学 の拠点」として自らの主導権の下に柔軟に臨機応変に共同研究を遂行し得る体制を持たなくてはならない。第三に、新 しい世紀におけるアジアの重要性とその一員としての日本の役割を考えたとき、アジアの基礎科学を支援するととも に共同研究を推進していくことが極めて大事である。しかも、この共同研究は分子研が主導権を持った形で推進出来 る事が肝要である。新しい世紀を迎えるにあたり、アジアにおける基礎科学の高揚をうながす為に日本が果たさなく てはならない役割と責任の大きさを考え、国際共同研究拠点として、アジアの若手研究者の受け入れと育成(特に博 士研究員の受け入れと育成)、各種研究施設(特に電子計算機センター(平成12年度から岡崎国立共同研究機構・計算 科学研究センターとなる)や極端紫外光実験施設)の提供、研究者の交流と共同研究の実施を効率良く遂行出来る体 制と予算的裏付けを求めていく。具体的には「物質分子科学」、「光分子科学」及び「化学反応ダイナミックス」の分 子科学3大分野に関して国際共同研究のネットワークを構築し、経済的に各分野毎に2−3件ずつの共同研究をそれ ぞれ2−3年計画で実施出来るようにするとともにアジアの若手博士研究者を年間数人程度受け入れる体制を構築し ていくべきであると考える。

概算要求の具体案

(1)UVSORの高度化 

2年∼4年程度で高度化を図り、第3世代に近付ける。

組織強化: 現行の極端紫外光実験施設の組織を5部門とし、その一つとして光源加速器開発研究部を新設部門とし て教授1、助手1の定員増を要求する。

(2) 特別課題研究

(2−1)分子物質開発研究センターを中心としたプロジェクト 研究課題: 分子スケール物質科学

目  的: 分子科学と生命科学の融合による物質観の創製 内  容: 機能発現の最小単位を追求し、その創製を図る。

(4)

・単一分子化学と単一分子エレクトロニクス:

1分子の機能性化学物質を適切に配置することにより、従来にない電子的性質の発現や、機能の開 発を行う。

・生体反応場の構築と生体触媒(タンパク質空間の反応化学):

統合バイオサイエンスセンターと協力して蛋白質間のナノ空間を化学反応を行う場として利用した 新たな反応システムの構築を行う。

・ミクロの目で見た液体(生体での液体の役割):

生体内、フラスコ内を問わず、化学反応は溶液中で進行するのが一般的である。特に水は水素結合 や、イオン化などの性質から特殊な反応場を形成しており、酵素やDNAもこうした性質を利用して いる。こうした溶液の本質を理解し、積極的に利用する物質化学の展開を目指す。

・化学エネルギー変換:

現在の物質変換はエネルギー効率という意味では、ほとんどのエネルギーを熱として浪費している というのが現状である。分子スケールでの新たな化学反応に伴うエネルギー変換システムを作り上げ る。

組  織: 分子物質開発研究センターの協力体制の強化

分子集団研究系に加え、相関領域研究系に教授1、助教授1、助手2を擁する生命分子素子部門を創設 する。錯体化学実験施設に教授1、助教授1、助手2を擁する錯体分子素子部門を創設する。

(2−2)分子制御レーザー開発研究センターを中心としたプロジェクト 研究課題: 分子スケールの反応と構造制御

目  的: 時間軸あるいはエネルギー軸を制御したレーザーによる新しい分子の概念の構築

内  容: 新たなナノ空間分解計測法の開発とそれを利用した時間・空間・エネルギーを全て特定した分子・超分 子の計測と制御

・波長可変光と走査トンネル顕微鏡による分子マニピュレーション:

走査トンネル顕微鏡の探針先端付近にレーザー光を照射すると,先端近傍での電場増強効果により, 大きな光電場の勾配が生じる。これにより単一分子マニュピュレーションを実現する。

・有機レーザーの開発:

ナノサイズのFET構造を用いて有機色素をレーザー発振させると、あらるゆる波長のレーザー光が 容易に得られる。このような新規レーザー開発を推進すると共に有機1分子に対する電場効果から新 たな分子物性の解明を行なう。

・単一分子光計測と生命体の分子運動:

レーザー蛍光顕微鏡の時間空間分解能の極限化、近接場顕微鏡、さらに2波長レーザーを用いた ファーフィールド超解像空間分光の開発により、ナノ空間領域の解像を実現し、単一分子の時間分解 光計測を実現する。さらにタンパクモーターに代表される生命体ユニットの分子運動を実時間計測し て生命体のメカニズムを可視化する。

組  織: 分子制御レーザー開発研究センターの協力体制

分子構造研究系、電子構造研究系、極端紫外光科学研究系、極端紫外光実験施設、新たに統合バイオサ

(5)

イエンスセンター戦略的方法論研究領域が参加する。

(3)多国間国際共同研究 具体的計画

(3−1)「物質分子科学」、「光分子科学」、「化学反応ダイナミックス」の各分野毎に欧米及びアジアから毎年8名 程度の研究者を受け入れ、8名程度を派遣し、共同研究を実施する。

(3−2)アジアの若手博士研究員を毎年5名程度受け入れられるようにする。

参照

関連したドキュメント

専攻の枠を越えて自由な教育と研究を行える よう,教官は自然科学研究科棟に居住して学

Research Institute for Mathematical Sciences, Kyoto University...

Instagram 等 Flickr 以外にも多くの画像共有サイトがあるにも 関わらず, Flickr を利用する研究が多いことには, 大きく分けて 2

 リスク研究の分野では、 「リスク」 を検証する際にその対になる言葉と して 「ベネフ ィッ ト」

関西学院大学手話言語研究センターの研究員をしております松岡と申します。よろ

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

【 大学共 同研究 】 【個人特 別研究 】 【受託 研究】 【学 外共同 研究】 【寄 付研究 】.

山階鳥類研究所 研究員 山崎 剛史 立教大学 教授 上田 恵介 東京大学総合研究博物館 助教 松原 始 動物研究部脊椎動物研究グループ 研究主幹 篠原